月齢伐採

「月齢伐採」をご存知ですか?

満月から新月の間に木を伐採すると
割れにくく、腐りにくく、虫がつきにくい
という性質を持った木材になるという

オーストリアの
エルヴィン・トーマが提唱し
彼が出版した本が
ドイツでベストセラーになりましたが

日本では、ある調査結果が芳しくなく
この伐採方法を取り入れる木樵さんは
減ってしまいました

ーー

ところが
菊川に住む
ココロ現代民家研究所株式会社の
山下しんいちさんは、この方法で伐採した木を
採用しています

山下さんは言います

「天文学で言う新月は昼の12時、正午が新月になり
正確に言うと新月日では
すでに満月に向かうサイクルに
なっているため

月齢伐採はカレンダーで
新月の日とされる日の前日までに
取らなければならないのが

カレンダーの日付だけで判断して
正確な時間で伐採してもらえなかったため
結果が出なかった」

私は専門家ではないので
そのことについては何も言えませんが
直感的には、山下さんが正しいような気がしました

何百年もかけて、木から、虫から、人から
学んできた知恵が、たった一度の検査により
全て否定されてしまうのは、悲しいような気がします

それでも、ここ数年で時代の流れが急に変わり
理解してくれる人も増えてきたようです

ーー

ところで、トラックも、工場も、チェーンソーも
なかった時代を想像してください

人は、どうやって巨大な木を運んだのでしょうか?

当時は、切った木を谷へ集めておき
堰(せき)を造り
雨が降った時、その堰を外し
下流に流していたようです

ーー

現在は、トラックで運べるように
山に道をつくって伐った木を
トラックに載せて工場へ出荷します

一見効率的に見えますが
実は、ここに問題が潜んでいます

ーー

木はゆっくりと自然に乾燥させることで強くなります
川辺に、木が浮いている風景を見たことはありませんか?

あれは、水で水を抜く作業をしています
(木の中の水分を抜くには、水に浮かべるのが一番なのだとか)

そう、昔ながらの方法で
少しずつ水を抜き、少しずつ強くしていきました

ところが、今は急激な変化により木が弱くなり
さらには100℃以上の水蒸気で蒸されることで
本来は腐りにくかったり虫に強い性分であるはずの木から
成分が抜け、スカスカに

薬剤が必要になってしまいました

ーー

昔ながらの方法で木を乾燥させるのは
杉でおおよそ1年もの時間を要します

しかし、山下さんは言います

「木は、50年も100年も生きてきた
そして、大切に使えば何百年を生きる

1年くらい何だというのだろう」

山下さんは、月齢伐採し、
昔ながらの方法で乾燥させた木を使用し
板倉構法を組み合わせて家を設計しています

注)板倉構法とは、昔は神社や仏閣のみに使われていた
方法で、釘や接着剤を使わず、木材を組み合わせて作る方法です

ーー

そして、山下さんは
民家の美しさに魅せられた人のひとり

山下さんのオフィスには
古いほうきがあり

「ね、あれ綺麗でしょ?」

と言われて

「はい」

とただ答えてしまいました

本当に、その空間が美しいのと
懐かしいのと
不思議な感覚になりました

ーー

「有名デザイナーの作った物も良いけれど
誰も知らない地方で作られたものが
本当は、一番美しいのではないだろうか?」

と山下さんは言います。

そして

「美しいは、使いやすい」

とも

「民藝運動」(※1)は
大正時代、柳宗悦からはじまりましたが
日本は、独自の世界があるので
今度も繋ぐ人がいればいいと思いました

※1)民衆の暮らしの中から生まれた美を
紹介しようとした運動です

ーー

そんな山下さんは菊川生まれ、菊川育ち
由緒ある、大工を祖先とする家に生を受けるも
若い頃は、あまり興味がなかったそうで

中学生の頃から
家庭画報の「私の部屋」を愛読
勉強嫌いも手伝って
インテリアデザイナーに憧れます

無事、デザイナーの専門学校に入学すると
卒業する頃はバブル絶頂期

大手企業から、次々に内定をもらいましたが
山下さんはなぜか、小規模な会社に就職します

毎朝、5:00に行って大掃除
新聞は、机の淵にきっちり揃えないといけないなど
変わったこだわりも

そんな中
インテリアデザイナーとして
限界を感じ始めます

ーー

店舗の内装を整えることは
化粧を変えることに似ています

しかし、お化粧は
肌や健康状態がわかっていないと
できません

インテリアも建築がわからないと
できないと感じた山下さんは
働きながら、一級建築士の勉強をはじめます

ーー

一級建築士といえば
超難関試験

ライバルたちが、一日中、予備校に通う傍ら

18:00頃、会社が終わってから予備校へ
家に着くのは、23:30、就寝は1:00頃

そして、翌朝は5:00に起きて
消防団の練習、その後は出社

というハードスケジュールを
こなしていましたが

試験2週間前
なんと会社をやめて勉強に集中します

さあ、もう後がありません

ところが、追い詰められると
力を発揮するタイプの山下さんは
一発合格

晴れて独立します

結婚して、お子さんもいて
試験結果も出てない時に
事務所も借りてしまったのですから脱帽です

ーー

山下さんは

「損の中に得があって、得の中にも損がある
あえて、損をすることで、将来的に得に転じることがある」

ということを感覚的にわかっている方なのだと思います

何かをコントロールすることより
自然の声を聞いて、自分の感覚を信じて生きてきた
山下さんの笑顔は少年の色を残していて

「大人になるより、子供でいる方が難しい」
と言った山田詠美さんの言葉を彷彿とさせました

ーー

他にも、木星や土星の話や
心理学や、水の話など
面白い話をたくさんしてくれましたが
それは、また別の機会に話したいと思います

山下さん、ありがとうございました

maki